京都地方裁判所 平成9年(ワ)1271号 判決 2000年10月16日
原告 昆布雅彦(以下「原告昆布」という。)
他3名
原告ら訴訟代理人弁護士 野々山宏
同 飯田昭
被告 株式会社 ミカドホームズ(以下「被告ミカドホームズ」という。)
右代表者代表取締役 植道悠二
右訴訟代理人弁護士 谷口光雄
被告 本四興産株式会社 (以下「被告本四興産」という。)
右代表者代表取締役 寺川壮二
右訴訟代理人弁護士 岸本亮二郎
右訴訟復代理人弁護士 川本修一
被告 株式会社 岩井商店(以下「被告岩井商店」という。)
右代表者代表取締役 岩井栄治
右訴訟代理人弁護士 花房太郎
被告 不破孝成
他1名
右両名訴訟代理人弁護士 猪野愈
主文
一 被告ミカドホームズ、被告本四興産、被告岩井商店は、原告昆布に対し、各自、金一一七五万三四二七円、及び被告ミカドホームズはこれに対する平成九年一月七日から、被告本四興産及び被告岩井商店については平成九年五月三一日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二1 被告ミカドホームズは、原告西沢に対し、金一四八九万三八九九円及びこれに対する平成九年一月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告不破両名は、原告西沢に対し、金一四一八万四六六六円及び被告不破功博についてはこれに対する平成九年五月三一日から、被告不破孝成についてはこれに対する平成九年六月一五日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告ミカドホームズ、被告本四興産、被告岩井商店は、原告藤岡に対し、各自、金一〇七九万八六三五円及び被告ミカドホームズについてはこれに対する平成九年一月七日から、被告本四興産及び被告岩井商店については平成九年五月三一日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告ミカドホームズは、原告瀬戸に対し、金九九四万九九八四円及びこれに対する平成九年六月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
六 訴訟費用はこれを一〇分し、その五を被告ミカドホームズ、被告本四興産及び被告岩井商店の連帯負担とし、その三を被告ミカドホームズ及び被告不破両名の連帯負担とし、その余を被告ミカドホームズの負担とする。
七 この判決は、第一ないし第四項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告ミカドホームズ、被告本四興産、被告岩井商店は、原告昆布に対し、連帯して、金一二四五万一〇〇〇円及びこれに対する平成二年四月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告ミカドホームズ、被告不破両名は、原告西沢に対し、連帯して、金一六〇五万四〇〇〇円及びこれに対する平成五年六月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告ミカドホームズ、被告本四興産、被告岩井商店は、原告藤岡に対し、連帯して、金一一四七万八〇〇〇円及びこれに対する平成元年一二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告ミカドホームズは、原告瀬戸に対し、金一〇五三万円及びこれに対する平成三年二月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、造成された土地及び地上建物を購入した原告らが、右建物建築業者ないし右土地の売主である被告らに対し、購入した土地や建物の瑕疵等を理由に損害賠償を請求した事案である。
(争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実)
一 原告らの土地建物の購入
1 原告昆布は、平成元年六月二六日、別紙物件目録一記載の土地建物(以下「本件土地建物(一)」といい、土地は「本件土地(一)」、建物は「本件建物(一)」という。)を購入し、本件建物(一)については平成二年三月二九日に所有権保存登記、本件土地(一)については同年四月一一日に所有権移転登記の各手続をそれぞれ行った。
2 原告西沢は、平成五年五月二〇日、被告不破両名から別紙物件目録二記載の土地建物(以下「本件土地建物(二)」といい、土地は「本件土地(二)」、建物は「本件建物(二)」という。)を購入し、平成五年六月一五日、本件土地建物(二)についての所有権移転登記手続を行った。
3 原告藤岡は、平成元年五月二二日、別紙物件目録三記載の土地建物(以下「本件土地建物(三)」といい、土地は「本件土地(三)」、建物は「本件建物(三)」という。)を購入し、平成元年一二月二五日、本件建物(三)については所有権保存登記、本件土地(三)については所有権移転登記の各手続をそれぞれ行った。
4 原告瀬戸は、平成二年七月二日、被告ミカドホームズから、瀬戸八洲子と共同で、別紙物件目録四記載の土地(以下「本件土地(四)」という。)を購入するとともに、被告ミカドホームズに対し、本件土地(四)の上に別紙物件目録四記載の建物(以下「本件建物(四)」という。)の建築を注文し、平成二年七月二七日に本件土地(四)の土地所有権移転登記、平成三年二月四日に本件建物(四)の所有権保存登記の各手続を行った(以下、本件土地(四)と本件建物(四)を併せて「本件土地建物(四)」という。)。
5 なお、本件建物(一)ないし(三)も被告ミカドホームが建築した。
二 本件紛争の経緯等
原告らが、それぞれ本件建物(一)ないし(四)に居住し始めたところ、次第に、建物が傾いたり、壁に亀裂が入ったり、雨漏りがするようになった。
そこで、原告らが、各建物を建築した被告ミカドホームズに対して苦情を申し立てたところ、被告ミカドホームズは、本件建物(一)ないし(四)の欠陥は、本件土地(一)ないし(四)の売主であり造成業者でもある被告本四興産や被告岩井商店らの造成工事の不備に基づくものであり、被告ミカドホームズの責任ではない旨主張した。他方、被告本四興産及び被告岩井商店は、本件土地建物(一)ないし(四)の売主であることを否定した上で、右欠陥は被告ミカドホームズの杜撰な建築工事に基づくものであると主張した。
三 本件の争点
1 原告ら、被告ら間の契約関係。
2 本件土地建物(一)ないし(四)の瑕疵の有無、内容、程度及び瑕疵発生原因。
3 被告らの損害賠償責任の有無。
4 瑕疵担保責任の除斥期間の経過の有無(起算点の時期)。
5 原告らの損害額。
第三当事者の主張
一 争点1(原告ら、被告ら間の契約関係)について。
1 原告らの主張
被告ミカドホームズは、原告昆布、原告藤岡、原告瀬戸に対しては、それぞれ本件土地建物(一)(三)(四)の実質的な売主であり、本件建物(一)ないし(四)の建築施工業者でもある。また同被告は、原告昆布及び原告藤岡とは本件建物(一)(三)につきそれぞれ追加工事請負契約を締結し、原告瀬戸とは本件建物(四)の建築請負契約を締結した。
被告本四興産及び被告岩井商店は、被告ミカドホームズとともに本件土地建物(一)(三)の共同売主である。
被告不破両名は、原告西沢に対する本件土地建物(二)の売主である。
2 被告らの主張
(一) 被告ミカドホームズの主張
(1) 原告昆布及び原告藤岡に対して
本件土地建物(一)(三)の売主は、被告本四興産及び被告岩井商店であり、被告ミカドホームズは、右売買契約に売主の代理人として関与したにすぎない。
被告ミカドホームズは、被告本四興産及び被告岩井商店から請け負って本件建物(一)(三)を建築したものであり、原告昆布、原告藤岡に対しては、本件建物(一)(三)の売主でも請負人でもない。
本件土地建物(一)(三)の販売による利益は、被告本四興産と被告岩井商店が得ており、被告ミカドホームズが右販売によって得た利益は、売買契約成立時での販売代理手数料として売買代金の五パーセントと請負工事代金のみであり、その利益額は少なく、本件土地建物(一)(三)の売主ということはできない。
(2) 原告瀬戸に対して
被告ミカドホームズが本件建物(四)の売主であって、原告瀬戸から注文を受けて建築したことは認めるが、原告瀬戸との関係では、本件土地建物(四)の売主は被告ミカドホームズだけでなく、被告本四興産と被告岩井商店も売主(共同売主)である。
(二) 被告本四興産及び被告岩井商店の主張
本件土地建物(一)(三)の実質的売主及び請負人は、被告ミカドホームズであり、被告本四興産は、原告昆布及び原告藤岡との関係では売主ではない。すなわち、右原告らとは何らの契約関係もない。
売買契約書(甲一、一五)には、被告本四興産及び被告岩井商店が売主として記名押印しているが、これは、右契約書記載どおりの建物の建築をすること及び被告本四興産、被告岩井商店及び被告ミカドホームズ間における代金の配分について実効性を確保するための工夫にすぎず、売買契約の実態を示すものではない。
原告昆布及び原告藤岡が、被告ミカドホームズに注文して建築させた本件建物(一)(三)は、右売買契約書の表示物件と異なっており、同一性がない。したがって、被告本四興産が本件建物(一)(三)を売ったということはできず、売主としての責任を問われる理由はない。
(三) 被告不破両名の主張
被告不破両名は、被告ミカドホームズから本件土地建物(二)を購入する際、株式会社富士銀クレジットから融資を受け、同社に対して抵当権を設定したが、右融資金の返済をすることができず、エールファイナンス株式会社(以下「エールファイナンス」という。)から融資を受けて右返済を行った。
しかし、被告不破両名は、エールファイナンスに対する融資債務の返済もすることができず、平成五年二月一七日、エールファイナンスの代表取締役大誠寺健一に対して本件土地建物(二)を譲渡し(ただし、信託を原因とする所有権移転登記手続と信託登記手続を行った。)、その後、大誠寺健一が、原告西沢に対して本件土地建物(二)を売った。
このように本件土地建物(二)については、確かに契約上の売主は被告不破両名となっているが、実質的にはエールファイナンスこと大誠寺健一が売主である。
二 争点2(本件土地建物(一)ないし(四)の瑕疵の有無、内容、程度及び瑕疵の発生原因)について。
1 原告らの主張
(一) 各建物の欠陥状況
(1) 本件建物(一)について
本件建物(一)は、その床及び柱が東及び北へ傾斜している。また、本件建物(一)は、地盤(本件土地(一))の圧密沈下が全体に起こり、特に東辺が西辺に比較して約七センチメートル、北辺が南辺に比べて約二センチメートル多く沈下している。
このため、外壁、基礎コンクリートに多くのひび割れが発生しているほか、建具にも機能障害や建て付け不良が全体的に見られる。
(2) 本件建物(二)について
本件建物(一)とほぼ同様である。
本件建物(二)の地盤(本件土地(二))は、東辺が西辺に比較して約一二センチメートル、北辺が南辺に比べて約二センチメートル多く沈下している。
(3) 本件建物(三)について
本件建物(一)とほぼ同様である。
本件建物(三)の地盤(本件土地(三))は、東辺が西辺に比較して約一一センチメートル、北辺が南辺に比べて約一センチメートル多く沈下している。
(4) 本件建物(四)について
本件建物(一)とほぼ同じである。
本件建物(四)の地盤(本件土地(四))は、東辺が西辺に比較して約一二センチメートル、北辺が南辺に比べて約五センチメートル多く沈下している。
(二) 欠陥の原因
(1) 造成工事の不備
本件土地(一)ないし(四)は、山腹部を階段状に宅地造成した盛土地盤の宅地であるが、盛土地盤は十分な締め固めをしなければその上に構造物を建築しても容易に沈下し、土自身の重さによっても圧縮(圧密沈下)してしまうところ、本件土地(一)ないし(四)について、締め固め度が十分であるか確認した形跡はなく、基礎地盤の支持力や圧密沈下の確認調査試験も行われていない。また、右盛土には多くの有機物や無機堆積物が混入しており、地盤沈下の原因となっている。
さらに、本件土地(一)ないし(四)を支える擁壁は、本件土地(一)ないし(四)の十分な土質調査も支持力調査もされないまま建設されたため、地盤反力に適合した安全性を備えていない。その結果、擁壁は次第に傾き、本件土地(一)ないし(四)が沈下し、本件建物(一)ないし(四)が傾いた。
(2) 異種地盤における基礎工事の不備
本件建物(一)ないし(四)は、コンクリート製地下ガレージと土砂(盛り土の埋め戻し)という異質な支持基礎にまたがって建築された建物であるが、このような異種地盤に建物を建築する場合は、外力に対する異なった性状によって引き起こされる引っ張り、剪断、ねじれ等を吸収することのできる基礎を採用しなければ建物の安全性を十分確保することができないところ、本件建物(一)ないし(四)では、いずれも布基礎が採用されており、異種地盤に対応する基礎(いわゆるベタ基礎等)が設けられていない。そのため、盛り土の埋め戻し地盤が沈下して各建物が傾斜した。
(3) まとめ
このように、本件土地(一)ないし(四)は、基礎地盤の耐力、擁壁の安全性及び基礎の応力がいずれも不足しており、本件建物(一)ないし(四)はいずれもコンクリートと土砂という異種地盤の上に建築されているほか、建築基準法第一九条二項、二〇条一項で要求される安全基準を満たしておらず、これらの欠陥が被害を発生させているものである。
なお、被告岩井商店らは、本件建物(一)ないし(四)に見られるこれらの欠陥の発生原因を、本件土地建物(一)の隣接マンション(以下「隣接マンション」という。)の建設工事に転嫁させようとしているが、右欠陥は、隣接マンションが建築される以前から徐々に発生していたものである。
2 被告らの主張
(一) 被告ミカドホームズの主張
(1) 本件土地(一)ないし(四)の地盤に見られる不同沈下の原因は、不完全な土地造成工事に起因するものである。すなわち、本件土地(一)ないし(四)に設置された擁壁は、底盤も小さく、地耐力が十分ではなかったため、沈下・傾斜し、それに従って地盤全体が沈下したものである。また、造成前の地盤調査も行われておらず、締め固め作業も不十分であった。
このような地盤の欠陥がある場合、仮に、被告ミカドホームズが本件建物(一)ないし(四)を建築する際に、ベタ基礎工事等を行ったとしても、地盤沈下は避けられなかった(すなわち、地盤全体が沈下してしまえば、ベタ基礎を施したとしても意味がないものである。)。
(2) 本件土地(一)ないし(四)を含む周辺の開発地は、宅地開発の目的で、山を削り、その一部に擁壁を設けて埋め立てる方法で造成されているが、右造成工事は、京都市の開発許可を受け、その後検査を受けて合格したものであるところ、右土地上に建築された建物に欠陥が生じたとしても、それは建物建築業者の責任ではない。
(二) 被告本四興産の主張
本件土地(一)ないし(四)は、通常の地耐力を有しており、これを否定する原告らの主張は争う。
仮に、本件土地(一)ないし(四)の地耐力が弱かったとしても、建物の建築に当たって、建物建築業者が地耐力の弱さに適合した基礎工法を講じていれば、完成建物に亀裂が発生することはない。したがって、仮に原告ら主張の損害が発生しているとしても、本件土地(一)ないし(四)の瑕疵(地耐力不足)との因果関係を否認する。
(三) 被告岩井商店の主張
本件土地(一)ないし(四)は、互いに隣接する傾斜地であるほか、本件建物(一)ないし(四)が建築された後の平成五年に、巨大な隣接マンションが建築されており、本件土地(一)に隣接する公園敷地内にも新たな建物が建築された。
これらの事実と、本件土地(一)ないし(四)が造成されて相当年数経過した後に被害が発生していることを併せて考えれば、原告らの主張する被害は、本件土地(一)ないし(四)の造成不良に起因するものではないというべきである。
本件土地(一)ないし(四)は、傾斜地を造成して開発されたニュータウン「グリーンヒル原谷」の一部であるが、その造成地の中で、欠陥が問題となっている土地は本件土地(一)ないし(四)だけであることからしても、原告らの主張する損害が造成工事に起因するものとはいえない。
(四) 被告不破両名の主張
原告西沢が主張する本件建物(二)の欠陥は、被告不破両名が退去した後に建てられた隣接マンションの建築工事によるものである。
三 争点3(被告らの損害賠償責任の有無)について。
1 原告らの主張
(一) 被告ミカドホームズの責任
(1) 債務不履行責任
被告ミカドホームズは、原告昆布、原告藤岡、原告瀬戸に対し、本件土地建物(一)(三)(四)の実質的売主として、安全な敷地の上に荷重及び外力に対して安全な構造を備えた建物を提供すべきであったにもかかわらず、地盤沈下を生じて安全性を欠く敷地及びその敷地上に建築された本件建物(一)(三)(四)を売却した。
また、被告ミカドホームズは、右原告らに対し、建築請負業者として、安全な敷地の上に荷重及び外力に対して安全な構造を備えた建物を建築すべきであったにもかかわらず、地盤沈下を生じて安全性を欠く敷地上に本件建物(一)(三)(四)を建築し、注文者である原告らに対し、その欠陥に基づく損害を被らせた。
よって、被告ミカドホームズは、右原告らに対し、売主もしくは請負人として、債務不履行(不完全履行)責任を負う。
(2) 不法行為責任(原告四名全員に対して)
被告ミカドホームズは、原告昆布、原告藤岡、原告瀬戸に対しては本件土地建物(一)(三)(四)の実質的売主として、また、原告四名に対しては本件建物(一)ないし(四)の建築施工業者として、基礎地盤(本件土地(一)ないし(四))の締め固め度・地耐力、擁壁の安全性・応力等の調査をすべきであったにもかかわらずこれらを怠った。また、耐力の不十分な地盤に対してはこれを改良するか、あるいは地盤に見合った安全性を有する擁壁及び基礎を施工すべきであったにもかかわらずこれを怠った。これらに加え、耐力の不十分な地盤上にコンクリートと土砂という異質な支持基盤を設け、異種地盤に対応する基礎工法を採用せずにその上に本件建物(一)ないし(四)を建築したために、本件土地(一)ないし(四)は不同沈下を生じるに至り、その結果、本件建物(一)ないし(四)が傾くなどの被害が発生した。
異種地盤の上に建物を建築する場合、地盤改良工事をするか、地盤の変状に連動しない剛性の高い基礎にしなければ地盤の不同沈下が起こることは、建築業を営む被告ミカドホームズにとっては容易に予見し得ることであった。
したがって、被告ミカドホームズは、不法行為に基づき、原告四名全員に対してその損害を賠償すべき義務を負う。
(3) 瑕疵担保責任
被告ミカドホームズは、原告昆布、原告藤岡、原告瀬戸に対する本件土地建物(一)(三)(四)の実質的な売主であり、また、本件建物(一)(三)(四)の建築請負人であるところ、売買の目的物である本件土地(一)(三)(四)は地盤沈下の生じる不安定な敷地であり、これを支える擁壁も基礎地盤の耐力が不足して安全性を欠くものである上、本件建物(一)(三)(四)も、支持力の不足する基礎を有するなど、本件土地建物(一)(三)(四)は、いずれも隠れた瑕疵を有している。
したがって、被告ミカドホームズは、原告昆布、原告藤岡、原告瀬戸に対し、売主もしくは請負人として、瑕疵担保責任を負う(民法五七〇条ないし六三四条)。
(二) 被告本四興産、被告岩井商店の責任
(1) 債務不履行責任
被告本四興産及び被告岩井商店は、原告昆布及び原告藤岡に対し、本件土地建物(一)及び(三)の共同売主として、安定した敷地の上に荷重及び外力に対して安全な構造を備えた建物を提供すべきであったにもかかわらず、地盤沈下の生じる安全性を欠いた敷地上に建築された本件建物(一)(二)を売却した。
よって、被告本四興産及び被告岩井商店は、原告昆布及び原告藤岡に対し、売買契約の債務不履行(不完全履行)に基づく責任を負う。
(2) 不法行為責任
被告本四興産及び被告岩井商店は、原告昆布及び原告藤岡に対し、本件土地建物(一)(三)の共同売主として、基礎地盤の耐力、擁壁の安全性、応力等の調査をすべきであったにもかかわらずこれらを怠った上、支持力の不十分な地盤に対してはこれを改良するか、あるいは地盤に見合った安全性を保った擁壁及び基礎を施工すべきであったにもかかわらずこれを怠った。その結果、本件土地(一)(三)は不同沈下を生じ、これによって本件建物(一)(三)が傾くなどの被害が発生した。
よって、被告本四興産及び被告岩井商店は、原告昆布及び原告藤岡に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
(3) 瑕疵担保責任
売買の目的である本件土地(一)(三)は、地盤沈下の生じる不安定な敷地であり、これを支える擁壁も基礎地盤の耐力の不足する安全性を欠くものである上、本件建物(一)(三)も、支持力の不足する基礎を有するなど、本件土地建物(一)(三)は、いずれも隠れた瑕疵を有している。
したがって、被告本四興産及び被告岩井商店は、原告昆布及び原告藤岡に対し、本件土地建物(一)(三)の共同売主として、瑕疵担保責任を負う(民法五七〇条)。
(三) 被告不破両名の責任
(1) 債務不履行責任ないし不法行為責任(告知義務違反)
被告不破両名は、本件土地建物(二)の売主として、本件土地(二)が地盤沈下を生じたり、それによって本件建物(二)が傾斜したり、外壁や基礎コンクリートのひび割れがおこるなど、建物の安全性や居住性に影響を及ぼす著しい欠陥のあることを知り、または容易に知り得たときは、本件土地建物(二)の買主である原告西沢に対し、これを告知すべき義務があったにもかかわらず、これを怠り、原告西沢に対し、本件土地建物(二)の欠陥に基づく損害を被らせた。
よって、被告不破両名は、原告西沢に対し、本件土地建物(二)の共同売主として、債務不履行ないし不法行為責任を負う。
(2) 瑕疵担保責任
売買の目的物である本件土地(二)は、地盤沈下の生じる不安定な敷地であり、これを支える擁壁も基礎地盤の耐力の不足する安全性を欠くものである上、本件建物(二)も、支持力の不足する基礎を有するなど、本件土地建物(二)は、いずれも隠れた瑕疵を有している。
よって、被告不破両名は、原告西沢に対し、本件土地建物(二)の売主として、瑕疵担保責任を負う(民法五七〇条)。
2 被告らの主張
(一) 被告ミカドホームズの主張
そもそも建築施工業者には、敷地の擁壁や基礎地盤の安全調査義務や改良義務はなく、本件土地(一)ないし(四)の造成は、適法な手続を経てなされていたことから、被告ミカドホームズにとって、地盤沈下を予見することは不可能であった。
本件土地建物(一)(三)(四)の売主は、被告本四興産及び被告岩井商店である。原告らとの関係で、地盤を調査・改良し、安全な擁壁を建設し、支持力のある基礎を施工すべき義務を有する責任があるのは、右被告らであって、被告ミカドホームズではない。
(二) 被告本四興産の主張
本件土地(一)ないし(四)は、昭和六二年夏頃には造成工事を完了しており、その耐力は、木造建物を建築するには何ら支障のないレベルに達していたものであるから、本件土地(一)ないし(四)に瑕疵はない。
仮に、本件土地(一)ないし(四)の耐力に何らかの不足があったとしても、その上に建物を建築する請負業者がその耐力に即応した基礎建築工法をとれば建築された建物に亀裂等が発生することはない。なお、原告昆布及び原告藤岡は、売買契約書(甲一、一五)と同一性のない建物(甲五表題部、甲一八表題部参照)を、被告ミカドホームズに依頼して建築させており、被告本四興産はそのことを知らなかった。
(三) 被告岩井商店の主張
本件土地(一)ないし(四)は、元々、福達興産と被告本四興産が昭和六三年頃までに造成を含めて共同開発したものであった。
右造成工事完了後、被告本四興産らは、本件土地(一)ないし(四)の一括売却を目論んでいたが、その後、被告岩井商店が、福達興産の持分(本件土地(三)(四)を含む)をすべて譲り受けるとともに、福達興産に替わって被告本四興産と共同企業体を形成して、建売住宅販売を行うこととなった。
すなわち、被告岩井商店が、福達興産から本件土地(三)(四)等を購入した時点では、既にこれらの造成工事は完了していたのであって、被告岩井商店にとって、右造成以前の状況や造成過程を知ることは不可能であった。したがって、被告岩井商店には地盤の強度等は知り得なかったというべきであり、また、その調査義務もなかったというべきである。
通常、公的に検査済みの完成宅地を購入した者が、これを販売するに当たってあらためてその地盤の性質や強度についてボーリング調査等の強度試験を行うべき義務はない。京都市の基準適合決定に対する信頼は保護されるべきである。
本件建物(一)ないし(四)は、原告らの注文を受けた被告ミカドホームズが建築した(どのような建物が最終的に完成するかについて被告岩井商店は関与することができる立場になかった。)ものであるから、その欠陥について被告岩井商店に責任はない。また、原告らは、注文住宅の建築を発注したのであるから、その注文により生じた結果についても責任を負うべきである。
(四) 被告不破両名の主張
被告不破両名は、本件建物(二)に居住中に特段の不具合を感じたことはなく、瑕疵のないものとしてこれを原告西沢に売却した。したがって、告知義務に違反した事実はない。
四 争点4(瑕疵担保責任の除斥期間の経過の有無[起算点の時期])について。
1 被告らの主張
(一) 被告ミカドホームズの主張
原告らは、本件訴訟の提起日である平成九年五月二六日の三年以上も前から本件土地建物(一)ないし(四)の欠陥に基づく被害の存在を知っていた。また、本件土地(一)ないし(四)の地盤沈下などが発生していたのはさらに以前のことであった。
したがって、瑕疵担保責任、不法行為責任のいずれに基づく損害賠償請求権も除斥期間の経過ないし消滅時効により消滅している(被告ミカドホームズは、平成一〇年一月二〇日の口頭弁論期日において、原告らに対し、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効を援用する旨の意思表示をした。)。
(二) 被告本四興産の主張
原告昆布及び原告藤岡は、本件土地建物(一)(三)の瑕疵に基づく被害を、平成三年夏頃には知っていたのであるから、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権は、平成四年八月末頃には除斥期間を経過して消滅した。
(三) 被告岩井商店の主張
原告らは、平成三年一〇月一四日より以前に、被告ミカドホームズに対し、本件土地建物(一)ないし(四)の欠陥を指摘していた(乙B2参照)。したがって、原告らは、遅くとも右時点で瑕疵の存在を知っていたというべきである。
(四) 被告不破両名の主張
原告西沢は、本件土地建物(二)の欠陥に基づく被害を、遅くとも平成五年八月末日までに知った。したがって、平成六年八月末日の経過をもって、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権は、その除斥期間の経過により消滅した。
2 原告らの主張
原告らは、本件土地建物(一)ないし(四)に欠陥(瑕疵)が存在することは、専門家からの調査報告によって初めて知った。その時期は、平成九年一月七日である。
本件のように地盤やそれに対応した基礎工事をしていない欠陥については、亀裂や建具の開閉不良等の不具合から生じている二次的欠陥や、素人が目視して判断することのできる不具合を知っていただけでは、なお欠陥(瑕疵)を知っていたということはできず、専門家に調査してもらったことによって初めて具体的に欠陥(瑕疵)を知ったものと判断されるべきである。
五 争点5(原告らの損害額)について
1 原告らの主張
原告らは、本件土地建物(一)ないし(四)の欠陥を補修するため及び本訴提起のために、次のとおりの損害を被った(ただし、内金請求とする。)。
(一) 原告昆布の主張(ただし、一二四五万一〇〇〇円の内金請求)
(1) 補修費用 一一二三万一〇〇〇円
(2) 調査費用 一〇万円
(3) 弁護士費用 一一二万円
(4) 一時移転費用 五〇万円
(5) 合計額 一二九五万一〇〇〇円
(二) 原告西沢の主張(ただし、一六〇五万四〇〇〇円の内金請求)
(1) 補修費用 一四五〇万四〇〇〇円
(2) 調査費用 一〇万円
(3) 弁護士費用 一四五万円
(4) 一時移転費用 五〇万円
(5) 合計額 一六五五万四〇〇〇円
(三) 原告藤岡の主張(ただし、一一四七万八〇〇〇円の内金請求)
(1) 補修費用 一〇三四万八〇〇〇円
(2) 調査費用 一〇万円
(3) 弁護士費用 一〇三万円
(4) 一時移転費用 五〇万円
(5) 合計額 一一九七万八〇〇〇円
(四) 原告瀬戸の主張(ただし、一〇五三万円の内金請求)
(1) 補修費用 九四九万円
(2) 調査費用 一〇万円
(3) 弁護士費用 九四万円
(4) 一時移転費用 五〇万円
(5) 合計額 一一〇三万円
2 被告らの主張
争う。
第四争点に対する判断
一 争点1(原告ら、被告ら間の契約関係)について。
1 《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。
(一)(1) 被告本四興産と被告岩井商店は、本件土地(一)ないし(四)を含む造成地において「グリーンヒル原谷」との名称で三一戸の土地付き住宅分譲事業を行うことを計画し、共同事業体を形成することに合意した。
右事業は、購入者に造成地内の気にいった区画の分譲地を選んでもらい、その上に購入者の希望する注文住宅を建築するという内容であった。
当初、住宅を建築するのは、被告岩井商店の関連会社であるイワイ住宅産業の予定であったが、被告ミカドホームズが、建築請負工事への参入を申し出たところ、被告岩井商店は、被告ミカドホームズが請負代金から管理料名目で被告岩井商店に金員を支払うことを条件に、被告ミカドホームズの右参入を認めることにした。
(2) 被告本四興産、被告岩井商店、被告ミカドホームズは、相互の役割分担、利益配分について協議を重ね、次のとおり合意した。
① 被告本四興産と被告岩井商店は、気にいった区画の分譲地の購入を申し込んできた者(購入者)からそれぞれの希望を聞いて、その注文どおりの住宅を建築し、その注文住宅と敷地とを併せて購入者に販売する。
② 注文住宅に関し、購入者からの希望内容の聴取や、設計についての打ち合わせは、実際に住宅の建築を行う被告ミカドホームズが代理してすべて行う。また、土地建物の売買代金の見積もり、売買契約の締結交渉についても、被告ミカドホームズが代理して行う。
したがって、購入希望者との交渉窓口は被告ミカドホームズに一本化し、「グリーンヒル原谷」の分譲地の購入希望者の連絡先も被告ミカドホームズとして看板・広告等の宣伝活動を行う。
③ 購入者との土地建物売買契約の相手方は、被告本四興産と被告岩井商店とする。
被告本四興産と被告岩井商店は、被告ミカドホームズに対し、購入者が支払う売買代金の中から建築請負代金として、一坪当たり三八万五〇〇〇円の割合により計算して支払う。また、被告本四興産と被告岩井商店は、被告ミカドホームズに対し、右の②交渉活動(販売代理活動)の報酬として、土地建物売買代金額の五パーセントを支払う。
④ 被告ミカドホームズは、③の計算に基づく受領する建築請負代金のうち、一坪当たり三万円を、管理料の名目で、被告岩井商店に支払う。
⑤ 購入者が支払う売買代金から③を控除した残額は、被告本四興産と被告岩井商店が受領する。ただし、被告ミカドホームズが購入者から売買代金を一旦受領し、このうち、③の受取分を控除した残額を被告本四興産と被告岩井商店に支払うものとする。
(二) 平成元年頃、原告昆布は、自宅の購入を考え、適当な物件を探していたところ、「グリーンヒル原谷」の宅地分譲の話を聞き、本件土地(一)ないし(四)付近の分譲地を訪れた。
原告昆布は、本件土地(一)の立地条件を気にいり、「グリーンヒル原谷」の看板に販売窓口(連絡先)として書かれていた被告ミカドホームズに連絡を取り、分譲条件について話を聞いてみた。すると、被告ミカドホームズの担当者は、販売予定の建物は注文住宅であり、購入者の希望を聞いて建てると回答した。
原告昆布は、本件土地(一)を購入してその上に注文住宅を建ててもらうことにし、平成元年六月二六日に本件土地建物(一)の売買契約を締結した。なお、右売買契約書には、売主欄に被告本四興産及び被告岩井商店の記名押印、販売代理欄には被告ミカドホームズの記名押印があり、売買目的物の建物として、木造瓦葺二階建(延床面積九五平方メートル)との記載しかなかったが、実際に原告昆布が提供を受ける建物が同人の希望に基づく注文住宅であることについては、原告昆布も被告ミカドホームズも黙示のうちに了解していたので、特に気にしなかった。
被告ミカドホームズは、原告昆布に対し、本件土地建物(一)(すなわち、本件土地(一)と将来建築されることになる本件建物(一))の売買契約の相手方(売主)が被告本四興産と被告岩井商店であること、本件建物(一)の建築を行うのは被告ミカドホームズであることの説明を行い、これから建てる住宅(後の本件建物(一))の設計等の希望を聞き、打ち合わせを行った。
そして、原告昆布は、平成元年六月二六日、被告ミカドホームズに対し、本件土地建物(一)の手付金として、二二〇万円を支払った。
被告ミカドホームズは、原告昆布の注文どおりの設計に基づいて建築工事を行い、平成二年三月九日には被告本四興産及び被告岩井商店を通さず、原告昆布との間で独自に追加変更工事を請け負うなどした後、同年三月頃に本件建物(一)は完成した。そして、原告昆布は、被告ミカドホームズに対し、残代金を支払った。
(三) 原告藤岡も、原告昆布と同様、本件土地(一)ないし(四)付近の立地条件、環境及び購入地に注文住宅を建てられること等を気にいり、被告ミカドホームズとの間で、平成元年五月二二日、本件土地建物(三)の売買契約を締結した。なお、右売買契約書には、売主欄、販売代理欄に原告昆布と同様の記名押印があり、売買目的物の建物として原告昆布の場合と同程度の抽象的な記載しかなかったが、実際に原告藤岡が購入する建物が同人の希望に基づく注文住宅であることについては、原告藤岡も被告ミカドホームズも黙示のうちに了解していたので、特に気にしなかった。
被告ミカドホームズは、原告藤岡に対し、本件土地建物(三)(すなわち、本件土地(三)と将来建築されることになる本件建物(三))の売買契約の相手方(売主)が被告本四興産と被告岩井商店であること、本件建物(三)の建築を行うのは被告ミカドホームズであることの説明を行い、これから建てる住宅(後の本件建物(三))の設計等の希望を聞き、打ち合わせを行った。
そして、原告藤岡は、平成元年五月二二日、被告ミカドホームズに対し、本件土地建物(三)の手付金として、二一〇万円を支払った。
被告ミカドホームズは、原告藤岡の注文どおりの設計に基づいて建築工事を行い、平成元年九月一日には前同様の方法で追加工事を請け負うなどした後、同年一二月頃、本件建物(三)は完成した。そして、原告藤岡は、被告ミカドホームズに対し、本件土地建物(三)の残代金を支払った。
(四) 被告不破両名は、平成元年九月二五日、本件土地建物(二)を被告ミカドホームズから購入したが、ローンを返済することができなかったので、エールファイナンスから融資を受けて返済を行い、エールファイナンスの代表取締役大誠寺健一は本件土地建物(二)について所有権移転登記手続及び信託登記手続を行った。その後、本件建物(二)は売りに出され、原告西沢は、平成五年五月二〇日、アード株式会社及びアスター株式会社の仲介により、被告不破両名との間で本件土地建物(二)の売買契約を締結した。
(五) 原告瀬戸は、平成二年五月頃から工場兼住宅となる建物を探していたところ、本件土地(四)の立地環境や、注文住宅を建築する等の条件が気に入ったので、本件土地(四)を購入することを決意した。そこで、原告瀬戸は、同年七月二日、被告ミカドホームズに対し、本件土地(四)の上に本件建物(四)の建築を注文するとともに、被告ミカドホームズとの間で本件土地(四)の売買契約を締結し、手付金三〇〇万円を支払った。
本件建物(四)の請負契約書には、建築目的物の建物として、原告昆布、原告藤岡と同様の抽象的な記載しかなされていなかったが、実際に原告瀬戸が提供を受ける建物が同人の希望に基づく注文住宅であることについては、原告瀬戸も被告ミカドホームズも黙示のうちに了解していたので、気にしなかった。
そして、被告ミカドホームズは、建築予定建物(後の本件建物(四))の設計等の希望を聞き、打ち合わせを行い、その後、原告瀬戸の注文どおりの設計に基づいて建築工事を行った。本件建物(四)は、平成二年一二月頃完成し、原告瀬戸は、平成三年一月頃、本件建物(四)に入居した。そして、原告瀬戸は、被告ミカドホームズに対し、本件土地建物(四)の残代金を支払った。
2 争点1(原告ら、被告ら間の契約関係)に対する判断
(一) 原告昆布及び原告藤岡は、被告ミカドホームズが、同原告らについても土地建物売買契約の当事者(売主)である旨主張する。
しかしながら、右の認定事実によれば、原告昆布は、被告本四興産と被告岩井商店から本件土地建物(一)を購入し、原告西沢は、被告不破両名から本件土地建物(二)を購入し、原告藤岡は、被告本四興産と被告岩井商店から本件土地建物(三)を購入し、原告瀬戸は、被告ミカドホームズから本件土地(四)を購入し、同被告に対して本件建物(四)の建築工事を注文したことが認められる。よって、被告ミカドホームズは、原告瀬戸との間では、本件土地(四)の売買契約当事者(売主)であり本件建物(四)の請負契約当事者(請負人)であると認められるが、原告昆布及び原告藤岡との間では、土地建物の売買契約当事者(売主)と認めることはできない。
確かに、原告昆布及び原告藤岡の立場からすれば、「グリーンヒル原谷」の宣伝広告、本件土地建物(一)(三)に対する契約交渉、本件建物(一)(三)の設計打ち合わせや建築工事については、すべて被告ミカドホームズが執り行っていたことや、被告本四興産や被告岩井商店とは何らの接触もなかったことからすれば、売買契約の相手方(売主)は被告ミカドホームズであると見えなくもない。
しかしながら、本件で問題となっている契約が、土地付き注文住宅の売買契約であることや、実際に設計・建築工事を行う業者が売主のために契約締結の交渉・代理行為を行うこと自体が一般的にも珍しいことではないことからすれば、契約当時、原告昆布や原告藤岡からすれば、実際の交渉相手方が契約当事者であるか否かまで重要な事実として認識していたとは考えがたい。注文住宅の建築に関する希望を叶えてもらうことが重要な契約締結の要素であって、本件全証拠を検討しても、ミカドホームズの法的立場如何で契約の成否が左右される合理的意思が存したと認めるに足りる証拠はなく、何より、本件土地建物(一)(三)の売買契約書において、素人目にも明らかな如く、被告ミカドホームズが「販売代理」を行う者として明記されていることからすれば(現地で掲げられた看板にも「販売代理」と記載されている。)、被告ミカドホームズが原告昆布や原告藤岡との関係でも売主であったと認めるのは困難である。また、被告本四興産、被告岩井商店、被告ミカドホームズら三者間における売買代金の分配方法(配分割合)が前記認定のとおりであり、被告ミカドホームズは、建築面積に応じた建築工事代金と販売代理執酬を受領していることが窺えるに過ぎないことからすれば、被告ミカドホームズが、法的地位として、代理人や下請業者に止まらず、購入者と直接的な契約関係(当事者の関係)に立つ売主であるとまで認めることはできないといわざるを得ない。
したがって、被告ミカドホームズは、原告昆布及び原告藤岡との関係では、売主である被告本四興産及び被告岩井商店の代理人であるに過ぎず、右両被告と共同売主であるとまでは認めることができず、原告らの前記主張は採用することができない。
(二) 次に、原告昆布及び原告藤岡は、被告ミカドホームズとの間で請負契約を締結した旨主張する。
確かに、被告ミカドホームズは、原告昆布及び原告藤岡の希望を取り入れて本件建物(一)(三)を設計・建築しており、代金の見積もりも被告ミカドホームズが行っていることや、追加工事の請負契約が締結されていることからすれば、請負契約が締結されたかのようにも見える。
しかしながら、本件土地建物(一)(三)に関する契約締結によって交わされた契約書は、あくまで「売買契約書」となっているほか、その目的物が本件土地(一)(三)だけではなく、注文住宅である本件建物(一)(三)も含んでいることを原告昆布も原告藤岡も被告ミカドホームズも了解していたことは前記のとおりであり、別途、請負契約(追加工事を除く)が締結された形跡は一切ない。
加えて、前記認定事実や、《証拠省略》からも明らかなように、そもそも本件土地建物(一)(三)に関する契約の本旨は、被告本四興産、被告岩井商店、被告ミカドホームズから見れば、購入者の希望を取り入れたいわゆる注文住宅を建築して敷地とともに提供するというものであり、他方、購入者である<原告昆布及び原告藤岡から見れば、実際に建築工事を行う被告ミカドホームズとの間で打ち合わせをして限られた予算内で自らの希望を取り入れた注文住宅を建築してもらうということであって、それ以上に、原告昆布ないし原告藤岡と被告ミカドホームズとが請負契約を交わして法的な契約関係に立つことまでが当事者にとって重要な関心事であったとは認めがたいし、実際、その必要性もなかった(請負契約関係に立たなければ注文住宅を建築することができないという訳でもない)と認めるほかない。
そうだとすれば、本件土地建物(一)(三)について交わされた契約は、あくまで売買契約であって、被告ミカドホームズは、被告本四興産及び被告岩井商店からの受注業者として原告昆布ないし原告藤岡の設計等についての希望を聞くために打ち合わせをし、本件土地建物(一)(三)の販売代理業者として交渉活動をしたに過ぎないと認めるのが相当である。なお、本件建物(一)(三)の建築中に、追加工事請負契約が締結されたとしても、追加工事と本工事とは一応別途の工事であるし、追加工事契約をしたからといってさかのぼって本請負工事契約の締結まで直ちに推認できるわけではなく、追加工事請負契約の有無で、右認定が左右されることはないというべきである。
以上のとおり、原告昆布及び原告藤岡が被告ミカドホームズとの間で請負契約を締結した事実は認めることができない。
(三) なお、被告本四興産及び被告岩井商店は、原告昆布及び原告藤岡との関係での売主は被告ミカドホームズのみであって(したがって、被告本四興産と被告岩井商店は、いずれも売主ではない。)、売買契約書上で右両被告が売主になっているのは、あくまで利益分配の確保を目的に記載されたもので、右両被告は名義上の売主に過ぎない旨主張する。
しかし、これらの売買契約当時、本件土地(一)は被告本四興産が、本件土地(三)は被告岩井商店がそれぞれ所有していたのであって、前記認定事実のとおり、「グリーンヒル原谷」の宅地分譲プロジェクトは右両被告が共同事業体を形成して行っていたものであること、被告ミカドホームズは被告本四興産及び被告岩井商店から一坪当たり三五万五〇〇〇円による請負代金及び総売買代金の五パーセントの報酬を受領していることなどからすれば、被告本四興産や被告岩井商店が、本件土地建物(一)(三)の共同売主として原告昆布及び原告藤岡と売買契約を締結するのに何ら不合理な点はなく、むしろ被告本四興産や被告岩井商店が売主として契約を締結することは購入者に対する所有権移転登記手続の便宜からも十分な理由があると認められる。
これらの事情の下では、売買契約書(甲一、一五)に売主として右両被告が記名押印している以上、右両被告が本件土地建物(一)(三)の売買契約の当事者(売主)であることを疑う余地はなく、その他本件に現われた一切の事情を考慮しても、本件土地建物(一)(三)の売主が被告ミカドホームズであって右両被告が売主ではないとの主張は採用することができない。
(四) 以上のとおり、原告昆布や原告藤岡との関係では、被告本四興産及び被告岩井商店が本件土地建物(一)(三)の売主であって、被告ミカドホームズとの間には直接に何らの契約関係もなく、被告本四興産及び被告岩井商店の販売代理人であり、右両被告から建物建築を請負った下請業者に過ぎない。
他方、被告ミカドホームズは、原告瀬戸との関係では被告本四興産と被告岩井商店も売主であったと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない(したがって、原告瀬戸と被告本四興産及び被告岩井商店との間に契約関係はない。)。
被告不破両名は、原告西沢との関係では、本件土地建物(二)の売主はエールファイナンスである旨主張するが、前記認定事実や、《証拠省略》によれば、本件土地建物(二)に関する原告西沢と被告不破両名との契約(甲一二)当時の本件土地建物(二)の所有者が被告不破両名であることは明らかであって、右契約書(甲一二)の体裁から見ても、右契約が原告西沢と被告不破両名との間の本件土地建物(二)の売買契約であることを否定する余地はなく、被告不破両名の右主張は採用することができない。
二 争点2(本件建物(一)ないし(四)の瑕疵の有無、内容、程度及び瑕疵の発生原因)について
1 認定事実
《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。
(一) 本件土地(一)ないし(四)の造成工事、擁壁の建設
本件土地(一)(二)及び本件土地(三)の一部は、もと被告本四興産の所有であり、本件土地(三)の残部と本件土地(四)はもと福達興産の所有する土地であったが、両者は、本件土地(一)ないし(四)を含む一体の土地を共同で宅地開発することを計画し、福達興産と現在の被告本四興産代表取締役である寺川壮二が、昭和六〇年一〇月一二日、都市計画法第二九条に基づく京都市の開発許可を受け、京都市北区大北山原谷乾町の丘陵地の一部を切り開いて三一区を宅地造成した。
右造成工事において、福達興産は、本件土地(一)ないし(四)及び本件土地(四)の北側隣接土地の東側に、これら五つの土地を支える擁壁(以下「東側擁壁」という。)を建設し、本件土地(一)及び(三)の南側にも擁壁を建設するとともに(本件土地(一)の南側に設置された擁壁を「南側擁壁1>」といい、本件土地(三)の南側に設置された擁壁を「南側擁壁②」といい、これらを併せて「本件擁壁」という。)、本件土地(一)ないし(四)に、別紙配置図の各土地内に記された点線の位置に、それぞれコンクリート製の地下ガレージを設置した(本件土地(一)から本件土地(四)に向けては、上りの傾斜地になっていることから、東側擁壁は、本件土地(一)(二)を支える擁壁(三・八五メートル)と、本件土地(三)(四)を支える擁壁(四・二五メートル)の間に約〇・四メートルの段差が設けられ、本件土地(二)と(三)も地盤の高さが異なることから、本件土地(三)を支える南側擁壁②が本件土地(三)の南側に設けられた。)
なお、東側擁壁と南側擁壁①②が建設された後、これらを接続する作業が行われたが、接続工事が完了するまでに、東側擁壁を支える基礎地盤が沈下したため、東側擁壁が約七センチメートル沈下し、外側(東側)に約五センチメートル傾斜したので、設計図上は、東側擁壁と南側擁壁①②の頂部は同一の高さに接続されるはずであったが、東側擁壁の方が約七センチメートル低くなったまま接続されることとなった。そして、東側擁壁と南側擁壁①②が接続された後、擁壁内の各切り土地盤(当時は、まだ盛り土されていない状態の本件土地(一)ないし(四))に、順次、コンクリート製地下式ガレージが建設され、さらには各地下式ガレージの天井付近を各土地の一階地面高と同一になるように土砂が運び込まれ、それぞれ盛土整地されていった。
これら一連の造成工事は、昭和六二年末頃完了し、約一年後、京都市の検査を経て、平成元年二月二三日に京都市から右開発許可の内容に適していることの検査済証の交付を受けた。
(二) 本件土地(一)ないし(四)の分譲販売及び本件建物(一)ないし(四)の建築
このように、福達興産と被告本四興産は、本件土地(一)ないし(四)を含む一体の土地を地下部分にコンクリート式ガレージを有する宅地に造成したが、福達興産は、昭和六三年一二月頃、自社の持分である本件土地(三)の一部と本件土地(四)を被告岩井商店に売却した。
その後は、被告本四興産と被告岩井商店とが、前述のとおり、共同企業体を形成した上で、本件土地(一)ないし(四)を含む各造成地上に注文住宅を建築して土地建物を併せて分譲販売することを計画し、当初は、被告岩井商店の関連会社であるイワイ住宅産業が住宅を建築する予定であったところ、前記のとおり、被告ミカドホームズが建築等に関わるようになったが、被告ミカドホームズは、本件建物(一)ないし(四)を建築するに当たり、本件土地(一)ないし(四)が新たに造成した盛土地盤であることを認識しながらも、その許容地耐力(許容支持力及び許容沈下量)を調査することのないまま、コンクリート製地下式ガレージを建物の基礎の一部とした上で、これに連続した布基礎を設け、これらを本件建物(一)ないし(四)の基礎とした。そして、布基礎部分は、盛土地盤上に設けられたものであったが、被告ミカドホームズは、布基礎部分をその下の切り土地盤に固定させる工事(建築学上、特殊基礎工事と呼ばれるもの)を施すことはしなかった。
そして、本件建物(一)は平成二年三月に、本件建物(二)は平成二年六月に、本件建物(三)は平成元年一二月に、本件建物(四)は平成二年一二月に、それぞれ建築工事が完了した。
(三) 欠陥の顕在化
原告昆布は、平成二年四月に本件建物(一)に入居してから約一年後、本件土地(一)の東側擁壁に亀裂が走っているのを発見したので、被告ミカドホームズに対し、修補を申し入れた。
被告ミカドホームズの担当者が擁壁の亀裂箇所を見分したところ、当該擁壁が全体的に南東側に傾斜していることを認識することができた。
そこで、被告ミカドホームズは、平成三年一〇月、弁護士を通じて、被告本四興産に対し、このままでは本件擁壁や地盤だけではなく、建物まで傾いてくるので、早急に対処するよう要請する旨の内容証明郵便を送付した。
しかし、被告ミカドホームズは、亀裂の原因等については原告昆布に特段の説明は行わず、コンクリートで若干の補修を行うに止まり、一方、被告本四興産は何らの対応もとらなかった。また、被告ミカドホームズは、原告藤岡に対しても、本件擁壁が傾斜していることの説明は行わなかった。
(四) やがて、本件建物(一)の壁や基礎にも亀裂が生じ始め、玄関や室内のドアが勝手に開くなどの不具合も見られ出したので、原告昆布は、被告ミカドホームズに連絡し、再三、苦情を申し出た。一方、平成三年一一月頃、本件建物(四)(原告瀬戸宅)でも同様の被害が生じ始めたので、原告瀬戸も、被告ミカドホームズに対して修補を請求していた。
原告藤岡は、本件建物(三)を購入後、しばらく空き家にしていたが、平成六年頃、息子夫婦を入居させるために、本件建物(三)を訪れたところ、床や柱が傾いているのに気付き、被告ミカドホームズに補修工事を行うよう要請した。
被告ミカドホームズは、これらの苦情に対して応急処置は施したものの、全体的・抜本的な補修工事については、原告らに対し、「お金がかかる。自分たちの責任だけじゃないので、売主にも連絡する。」などと言うのみで、特段の処置もされないまま時間が経過した。
(五) 原告西沢は、平成五年六月二〇日、本件建物(二)に入居したが、間もなく、梅雨時の大雨が降ったところ、何か所もの窓枠サッシから雨水が漏れてきたので、仲介業者であるアード株式会社に苦情を申し立てたところ、アードの依頼を受けた業者により、雨漏り部分のある窓枠サッシにコーキングが施された。
原告西沢は、居住を続けるうちに、ボールが自然に床面を転がり始めたり、ドアが勝手に開いたりするようになったことに気付いたが、単に立て付けが悪いものと考えたに止まった。
その平成八年三月頃、原告西沢は、原告昆布から、あなたの家も傾いていませんかと聞かれたことを契機に、自分なりに調べてみたところ、床が傾いているのに気付いた。
(六) このように、原告らの中で、建物の傾斜に敏感に気付いた者もあまり気にしなかった者もいたが、現実には、原告らの建物(本件建物(一)ないし(四))の床・柱の傾きや壁、基礎部分の亀裂、雨漏り等は徐々に拡大・悪化していった。その結果、遅くとも、平成八年末から九年頃には、本件建物(一)ないし(四)に入ると、地下式ガレージ上に建っている建物西側部分は平坦であるが、建物東側部分は、東側に傾き、居住者にとって、非常に不快な感覚を抱く程度(ちょうど、ガレージのコンクリート部分の東端線を境に建物が折れ曲がっているような感覚を覚える。)までに至っている。
このような被害拡大に対し、原告らは、被告ミカドホームズに対して何度も苦情を申し立てたところ、被告ミカドホームズは、平成八年夏頃、原告らに対し、個別的に、「各建物の補修費用として、それぞれ二〇〇万円ないし二五〇万円ほどかかるので、半額ずつ折半しないか。」などと申し入れたが、原告らは、責任の所在や補修内容が不明確であった上、補修後の被害の可能性の有無についても判然としなかったので、右申入れを断った。
(七) そして、原告らは、本件建物(一)ないし(四)に関する被害の原因と責任の所在及びとるべき補修工事の内容を明らかにすべく、平成八年末頃から平成九年初め頃にかけて、有限会社タウン測量設計(以下「タウン設計」という。)の幸陶一建築士(証人幸)に調査を依頼した結果、次のような事実が判明した。
(1) 本件建物(一)について
建物変位の特徴として、床面が東へ〇・三五パーセントから〇・二五パーセント、北へ〇・六〇パーセントから〇・三五パーセントそれぞれが下がっており、柱が東へ〇・九五パーセントから〇・四〇パーセント、北へ〇・五五パーセントから〇・一五パーセントそれぞれ傾斜している。
また、玄関外階段の地盤の圧密沈下が全体に起こっており、東辺が西辺に比べて約七センチメートル、北辺が南辺に比べて約二センチメートル、それぞれ多く沈下している。
さらに、全体的に外壁や基礎コンクリートに多くの亀裂が発生し、建具にも機能障害や建付不良が発生している。
(2) 本件建物(二)について
建物変位の特徴として、床面が東へ一・七〇パーセントから〇・四〇パーセント、北へ〇・六五パーセントから〇・四〇パーセントそれぞれ下がっており、柱が東へ一・七五パーセントから〇・九〇パーセント、北へ〇・三五パーセントから〇・二五パーセントそれぞれ傾斜している(コの形建物の前面道路側部分の南北方向では、床が〇・二〇パーセント南に傾斜し、柱が〇・一〇パーセントから〇・〇五パーセント南に傾斜している。)。
また、地盤の圧密沈下は全体に起こっており、東辺が西辺に比べて約一二センチメートル、北辺が南辺に比べて約二センチメートルそれぞれ多く沈下している。
さらに、全体的に外壁や基礎コンクリートに多くの亀裂が発生し、建具にも機能障害や建付不良が発生している。
(3) 本件建物(三)について
建物変位の特徴として、床面が東へ一・三五パーセントから一・二〇パーセント、北へ〇・一〇パーセントから〇・〇五パーセントそれぞれ下がっており、柱が東へ一・一五パーセント、北へ〇・四〇パーセントそれぞれ傾斜している。
また、玄関外階段の地盤の圧密沈下が全体に起こっており、東辺が西辺に比べて約一一センチメートル、北辺が南辺に比べて約一センチメートルそれぞれ多く沈下している。
さらに、全体的に外壁や基礎コンクリートに多くの亀裂が発生し、建具にも機能障害や建付不良が発生している。
(4) 本件建物(四)について
建物変位の特徴として、床面が東へ一・八〇パーセントから一・〇〇パーセント、北へ〇・二〇パーセントから〇・一〇パーセントそれぞれ下がっており、柱が東へ一・八〇パーセントから〇・九五パーセント、北へ〇・三〇パーセントから〇・〇五パーセントそれぞれ傾斜している。
また、玄関外階段の地盤の圧密沈下が全体に起こっており、東辺が西辺に比べて約一二センチメートル、北辺が南辺に比べて約五センチメートルそれぞれ多く沈下している。特に、地下ガレージ部分に乗った建物部分と乗っていない建物部分(洗面洗濯室、浴室など)の境に沈下差が大きい。
さらに、全体的に外壁や基礎コンクリートに多くの亀裂が発生し、建具にも機能障害や建付不良が発生している。
(5) 東側擁壁について
現在、東側擁壁は、その頭部が約五センチメートル外側(東側)に傾斜しているほか、南側擁壁①との接合部分において、南側擁壁①よりも約七センチメートル沈下している。
また、東側擁壁は、本件土地(一)と本件土地(二)の境界付近で、別紙配置図のとおり、東側隣地のマンション擁壁と接合されているが、東側擁壁とマンション擁壁の接合下部が約二センチメートル離れており(接合上部はぴったりと接合されている。)、東側擁壁とマンション擁壁とを支えるコンクリート補強台にも、右接合下部からの亀裂が生じている。
(八) 右(七)の調査に先立つ平成八年九月一一日、報国エンジニアリング株式会社によって、本件土地(一)の地盤調査が行われた。調査地点は、別紙「配置図」の地点で、調査方法としては、スウェーデンサウンディング方式が採用された。この調査結果は、別紙「本件建物(一)地盤調査結果」のとおりであり、地盤が深くなるほど支持力は大きくなっていっているが、深さ一・二五メートルから一・五メートルの間の支持力が「2.3t/m2」しかなく、その上下の地盤の支持力よりも「2~3t/m2ほど小さくなっている(「2~3t/m2」程度では住宅建築に相応しい支持力ということはできない。)。
(九) 本件土地(一)ないし(四)は、都市計画法二九条の規定に基づく開発行為の許可を受けて造成された開発区域内の造成地であり、いずれも切り土の背面に擁壁を建設した盛土地盤である。しかしながら、盛土による造成の場合は、土自身の重さ(土かぶり圧)によって圧縮されたり、圧密沈下(上載荷重によって土中の水が排除され土が圧縮されて沈下する現象)し、盛土地盤は、土かぶり圧による有効応力に対応した均衡状態になるまで沈下するので、地盤を構成する土砂の種類を調査した上で、転圧機械により締め固め工事を十分に行い(すなわち、土を順々に埋め重ねていくごとに、適宜、何度も締め固め工事を行い)地盤を圧縮しなければ、許容支持力の極めて弱い、地盤沈下を起こす危険性の高い地盤となってしまう。
なお、本件土地(一)ないし(四)の造成工事が行われた昭和六三年から平成元年頃は、民間工事においては、盛土地盤の転圧作業に関する明確な基準がなく、その造成工事に関しては、行政庁から「原地盤の処理を適切に行った上で沈下や崩壊することのないよう工事を行うべき」旨の注意事項が付されるのみで、締め固め工事の程度については、個々の開発業者の判断に委ねられていたが、やがて土地開発事業の発達に伴い多くの山あいの傾斜地が開発されるに及んで、杜撰な盛地の造成工事を行う業者も増えてきたので、京都市は、「京都市住宅造成工事示方書」(京都市都市建設局土木開発部指導課作成)を改定し、その第一七条二項において、「開発者等は、埋戻しの際には、各層(一層三〇センチ程度)ごとに、十分に締め固めなければならない」との基準を示すに至っている。
(一〇) 建物の基礎に関しては、原則として、異なる構造方法による基礎を併用してはならないことが法定されている。
すなわち、杭基礎と直接基礎を併用するなど、異種基礎を併合して建物を建築すると、不同沈下を生ずる可能性が大きいので、建築基準法施行令三八条二項は、「建築物には、異なる構造方法による基礎を併用してはならない。ただし、建築物の構造、形態、及び地盤の状況を考慮した構造計算又は実験によって構造耐力上安全であることが確かめられた場合においてはこの限りでない。」と定めている。
ところが、本件土地(一)ないし(四)に関しては、前記のとおり、切土地盤上にコンクリート製のガレージを設けて周囲を盛土地盤にした(その結果、ガレージは地下式ガレージとなった)ものであり、本件建物(一)ないし(四)は、地下式ガレージの天井を基礎の一部として、これに隣接して布基礎を設け、これらの上に跨って建築された住宅建物である。換言すれば、本件建物(一)ないし(四)は、①切り土地盤まで到達した地下式ガレージのコンクリート基礎(構造的にはベタ基礎と同視できる基礎)と、②特に、切り土地盤まで達する支持杭の設けられないまま、盛り土地盤に直接設置された布基礎という、一体となっていない異なった構造方法による基礎に跨って建築されている。
(一一) タウン設計が、平成一〇年一一月四日、本件土地建物(一)ないし(四)を再見分し、沈下の進行具合を調査したところ、その調査結果は、別紙図面の「不定期沈下観測調査表」記載のとおりであった。平成九年一月七日の調査(右(七)の調査)に比べ、沈下の見られないところもあったが、沈下が最大一三センチメートル進行している地点もあった。
2 被害の原因
(一) 右の認定事実によれば、本件建物(一)ないし(四)が傾斜したことの主たる原因を、次のように推認することができる。
本件土地(一)ないし(四)の盛土地盤に対する締め固め作業(転圧作業)が十分に行われなかったために、支持力の弱い地盤層が地中に残ってしまい、その上に建てられた建物の荷重等には耐えられない地盤になってしまった。このような場合、堅固な基礎を設けるか、あらためて地盤の締め固め作業を行うかをしなければ、少なくとも地盤沈下を起こす危険性が高かったにもかかわらず、これらの措置がとられないまま地下式ガレージの天井部分と盛土地盤の布基礎という異種構造基礎に跨って本件建物(一)ないし(四)が建築された。そのため、支持力の強い切り土地盤に基礎を置く地下式ガレージに乗った建物部分は沈下しなかったものの、支持力の弱い盛土地盤部分の布基礎部分はその上の建物荷重に耐えられずに圧密沈下を起こして傾斜した結果、各建物は、地下式ガレージ部分と盛土盤部分を境にして、あたかも折れ曲がったような状況に至った。
(二) 右(一)によれば、本件土地(一)ないし(四)が地盤沈下を起こし、本件建物(一)ないし(四)が傾斜する被害を受けるに至ったことの主たる原因は二つあると推認される。すなわち、第一の原因は、地下式ガレージの設けられていない盛土地盤の支持力が、住宅建築におよそ相応しくない程度の、極めて薄弱なものであったこと、第二の原因は、支持力の異なる異種構造の基礎に跨って建物を建築したことである。
三 争点3(被告らの損害賠償責任の有無)
1 建築業者の責任(被告ミカドホームズの不法行為責任)
(一) 建築業者の注意義務及び被告ミカドホームズの義務違反
(1) 建築業者である以上、建築物の定着する地盤が平らで均一な支持力を有するものばかりではないことは当然認識すべき事柄であって、特に、傾斜地を切り開いて造成された盛土地盤に建築物を建てようとするときには、性質上支持力の弱さが容易に予見できるというべきである。したがって、建築業者としては、建物を建築するに当たり、その基礎を設ける地盤の支持力が十分か否かを調査し、支持力の異なる地盤に基礎を設けざるを得ないときは、一体的な基礎を設けた上で、その基礎が所々で支持力の違う基礎とならないように支持力の弱い地盤上の基礎部分には堅固な地盤まで支持杭を延ばして表面部分の基礎を支えるなどの工夫をするなどして、不同沈下を起こすことのないよう配慮すべき義務があるというべきである。
なぜなら、これは生命・身体・財産の保護と公共の安全が図られる建物の建築を請負うべき社会的責任のある建築業者としては、当然尽くすべき基本的な注意義務と解されるし、建物の注文者も、建物を取り巻く社会環境もこれを期待していることはいうまでもないからである。
(2) しかしながら、前記認定事実によれば、被告ミカドホームズは、本件建物(一)ないし(四)を建築するに当たり、その敷地が盛土地盤であることを知りながら、何らの地盤調査も行わなかったばかりか、支持力の異なる異種構造基礎に跨って各建物を建築したというのであるから、建築業者として負うべき建物についての安全性確保義務に違反していることは明らかというほかない。
(3) よって、被告ミカドホームズは、民法七〇九条により、本件建物(一)ないし(四)の傾斜により原告らの被った損害に対して、賠償すべき義務を負う。
(二) 東側擁壁の傾斜について
被告ミカドホームズは、東側擁壁が傾斜している事実をもって、本件土地建物(一)ないし(四)の傾斜の原因が、主として造成工事の不備にあることを主張し、被告ミカドホームズの義務違反と右被害との因果関係はないと主張する。
確かに、前記認定事実によれば、東側擁壁が、その建設過程において、擁壁の底盤下の地耐力(以下「擁壁基礎地盤の地耐力」という。)が不足していたにもかかわらず、擁壁基礎地盤の締め固め作業を十分にしないままに東側擁壁を建設したために、東側擁壁が傾斜した形で完成してしまったことが認められることから、東側擁壁の傾斜が本件建物(一)ないし(四)の傾斜を増長させたようにも見えなくはない。
しかしながら、前記認定事実のとおり、東側擁壁はその後に建設されたマンション擁壁や、東側擁壁の東側に積み上げられた盛土地盤によって支えられており、現在は明らかな傾斜状況にあるとは認められず、本件土地(一)ないし(四)については、平成九年から平成一〇年にかけても地盤沈下が明白に進行している状況があることに比較対照すれば、東側擁壁が傾斜したまま建設されたことと、東側擁壁の基礎地盤の地耐力が不足していたことは、地盤沈下の従たる要因にすぎないと認めるのが相当であり、本件においては、特に責任の所在についての判断や結論の帰趨に影響を及ぼさないと認められる。
したがって、本件建物(一)ないし(四)の傾斜は、被告ミカドホームズの前記注意義務違反(建築業者として負うべき建物についての安全性確保義務違反)と相当因果関係のあるというべきであって、被告ミカドホームズの右主張は採用することができない。
2 瑕疵担保責任(被告ら全員の責任)
(一) 前記認定の事実によれば、被告本四興産及び被告岩井商店は、原告昆布との関係では、本件土地建物(一)の売主であり、原告藤岡との関係では本件土地建物(三)の売主であること、被告不破両名は、原告西沢との関係で本件土地建物(二)の売主であること、被告ミカドホームズは、原告瀬戸との関係で本件土地(四)の売主であり、本件建物(四)の建築請負人であることが、それぞれ認められる。
(二) そして、前記認定事実によれば、本件土地建物(一)ないし(四)には、売買契約当時には、取引上、一般通常人の視点では容易に発見することのできなかったと考えられる欠陥(整備不十分な盛土地盤が次第に不同沈下を起こすこと、建物が支持力の異なる基礎地盤に跨って建築されること)が存していたことが認められる。
そうだとすると、被告らは、それぞれの売買契約の相手方である原告らに対し、民法五七〇条に基づく瑕疵担保責任を負うことになる(被告ミカドホームズは、本件建物(四)につき、原告瀬戸に対して民法六三四条に基づく瑕疵担保責任も負う。)。
(三) 右(二)の点に関し、被告本四興産及び被告岩井商店は、本件建物(一)(三)については売買契約書に記載されたものとは異なる建物が実際に建築されている旨主張するが、前記認定事実によれば、右両被告は、被告ミカドホームズに対し、注文住宅の設計・建築を包括的に委ねていたのであり、売買契約書に記載された建物は、あくまで売買契約の目的物を土地建物とするために契約書に記載された仮の建物にすぎないこと、現実に建てられる建物がどのような建物であるかは、被告ミカドホームズと原告昆布、原告藤岡の間でそれぞれ打ち合わせにより了解済みであった(被告本四興産や被告岩井商店は、被告ミカドホームズと購入者らがどのような注文住宅を打ち合せているかについては関心がなく、知る必要はなかった)のであるから、売買契約書に記載された建物の構造と現実に建てられた建物の構造が一致しないとか、売主である被告本四興産と被告岩井商店が設計の打ち合せ内容を知らなかったなどの事情により、民法五七〇条の適用が妨げられるものではないというべきである。なお、本件建物(一)、(三)が売買契約時には存在しなかった点については、これらの建物は、いずれも被告ミカドホームズと購入予定者(原告昆布、原告藤岡)が、個々に打ち合せて独自の設計に基づいて建築され、これを右の各購入予定者が買い受けたのであるから、まさに当事者がその目的物の個性に着目して購入したものであって、民法五七〇条の適用があると解される。
したがって、民法五七〇条の適用に関する被告らの主張及び同条に基づく責任を否定する被告らの主張は、すべて採用することができない。
3 被告本四興産及び被告岩井商店の不法行為責任、被告不破両名の不法行為責任、被告ミカドホームズの原告瀬戸に対する不法行為責任について
(一) 被告本四興産及び被告岩井商店の不法行為責任について
原告昆布及び原告藤岡は、被告本四興産及び被告岩井商店に対し、売主の責任として目的物である物件が瑕疵のないものであるよう調査すべき義務を負うと主張するが、右義務は売主の債務不履行責任に包含されるものと解するのが相当であるから、原告昆布及び原告藤岡は、被告本四興産及び被告岩井商店に対し、契約責任である瑕疵担保責任を追及できるに止まるというべきである。
(二) 被告不破両名の不法行為責任について
原告西沢は、被告不破両名に対し、本件土地建物(二)の瑕疵を知り、もしくは知り得たときにはこれを買主である原告西沢に知らせるべき義務を負うと主張するが、右義務の存在が認められるとしても、被告不破両名が、本件土地建物(二)を原告西沢に売却するにあたり、本件土地建物(二)の瑕疵ないしその可能性を知っていた、もしくは知り得たことを認めるに足りる証拠はない。
(三) 被告ミカドホームズの原告瀬戸に対する不法行為責任について
原告瀬戸は、被告ミカドホームズに対し、売主及び建築業者の責任として目的物である物件が瑕疵のないものであるよう調査すべき義務を負うと主張するが、右義務は売主の債務不履行責任(売買契約もしくは請負契約上の瑕疵担保責任)に包含されるものと解するのが相当であるから、原告瀬戸は、被告ミカドホームズに対し、契約責任である瑕疵担保責任(民法五七〇条、民法六三四条)を追及できるに止まるというべきである。
4 責任原因に関するまとめ
(一) 本件土地建物(一)関係
被告ミカドホームズは民法七〇九条に基づき、被告本四興産及び被告岩井商店は民法五七〇条に基づき、各自、原告昆布に対し、本件建物(一)の補修に要する費用相当額の賠償をすべき責任を負う。
(二) 本件土地建物(二)関係
被告ミカドホームズは民法七〇九条に基づき、被告不破両名は民法五七〇条に基づき、各自、原告西沢に対し、本件建物(二)の補修に要する費用相当額の賠償をすべき責任を負う。
(三) 本件土地建物(三)関係
被告ミカドホームズは民法七〇九条に基づき、被告本四興産及び被告岩井商店は民法五七〇条に基づき、各自、原告藤岡に対し、本件建物(三)の補修に要する費用相当額の賠償をすべき責任を負う。
(四) 本件土地建物(四)関係
被告ミカドホームズは民法五七〇条(本件土地(四)との関係)及び同六三四条(本件建物(四)との関係)に基づき、原告瀬戸に対し、本件建物(四)の補修に要する費用相当額の賠償をすべき責任を負う。
四 争点4(瑕疵担保責任の除斥期間の経過の有無)
1 被告らは、原告らの本訴請求は、原告らが本件土地建物(一)ないし(四)の被害(欠陥)を知ったときから一年以上が経過した後になされたものであるから、民法五七〇条の除斥期間は既に経過している旨主張する。
2 「隠れたる瑕疵」(民法五七〇条)とは、売買目的物が、通常有すべき品質・性能を欠いていることによりその物の価値が逸失ないし減少しており、そのことが売買契約当時に一般取引上要求される通常の注意によっても知り得なかったことをいうものと解されるところ、本件においては、原告らは、平成三年頃から遅くとも平成八年初め頃までには、被告ミカドホームズに対し、東側擁壁の傾斜や本件地盤沈下についての苦情を申し立てているのであるから、原告らは、既に本訴提起一年以上前には、それぞれ、本件建物(一)ないし(四)の傾斜等の被害を認識していたことが認められる。
しかしながら、民法五七〇条、五六六条は、法律関係の早期安定の趣旨から一年間の除斥期間を定めているが、同時に、瑕疵担保責任の効果として、買主による解除ないし損害賠償請求を規定していることからすれば、その除斥期間は、単に瑕疵が認識可能となったときから進行するのではなく、問題となる瑕疵がある程度准行し、瑕疵の内容や程度が明確化したときから進行するものと解すべきである。なぜなら、瑕疵担保責任に基づく解除の意思表示や損害賠償請求を行うか否かの判断を合理的に下すためには、瑕疵の原因までは知る必要がないとしても、少なくとも、一般通常人が右判断をなし得る程度に瑕疵の内容程度を知る必要があるというべきであって、そのためには、瑕疵がある程度進行してその内容や程度が明確化していることが必要だからである。
そうすると、本件においては、原告ら各人がそれぞれ本件建物(一)ないし(四)の傾斜や本件地盤沈下を知った時点(平成三年から平成八年までの時点)において、いまだこれらの被害は進行中であったことが認められ、原告らは、平成九年一月初め頃には、タウン設計の調査結果により、本件建物(一)ないし(四)につき、瑕疵の内容や程度が明確化し、その原因について専門的観点に基づく診断を受けたのであるから、原告らは、右時点より、瑕疵担保責任に基づく解除や損害賠償請求をすることが可能になったものと認められる。
そうだとすれば、本件訴訟が、平成九年五月二六日に京都地方裁判所に提起されたことは記録上明らかであるから、原告らの民法五七〇条に基づく損害賠償請求権は、除斥期間の経過によって消滅していない。
なお、本件建物(四)に関する被告ミカドホームズの原告瀬戸に対する瑕疵担保責任の存続期間(民法六三四条)は、民法六三八条により、除斥期間が引渡しのときから五年とされる(五年以内に民法六三四条の請求権を行使しなければならない)ところ、本件においては、原告瀬戸は平成三年一一月頃には被告ミカドホームズに対して修理を請求しており(引渡時期は同年三月頃)、本件建物(四)に関する民法六三四条に基づく損害賠償請求権も除斥期間の経過によって消滅していない。
3 以上に反する被告らの主張はすべて失当であり、一切採用することができない。
五 争点5(原告らの損害額)について
1 《証拠省略》によれば、本件建物(一)ないし(四)の本件地盤沈下に基づく被害に対する補修として、概ね次のような工事を要することが認められる。
(一) 地盤の固化工事
地盤を構成する土砂の性質を調査し、工法を決定し、地盤の圧密沈下を防止するために、空隙部にセメント系溶液を注入する。
(二) 建物の押し上げ工事
右(一)により地盤が十分固くなった後、傾斜した建物部分をジャッキで押し上げる。
(三) 基礎の補強・打ち替え工事
右(二)の途中で、沈下したり、折れるなどして機能が低下していた基礎コンクリートを復旧補強する。その後、補強部分の強度を十分確認し、押し上げていた建物部分と接合する。なお、基礎に構造的問題があった場合は、構造変更工事を行う。
(四) 足場の組立・解体
外壁、樋、屋根瓦を調査するために簡易足場を組立てる。ただし、工事終了後には取り外す。
(五) 構造材の補強接合
柱、梁、桁、筋交い、火打ち、構造面材などに生じた歪みやねじれ、疲労、亀裂など接合部分の不整合を調整補強する。なお、構造上問題のある部分については、挿入補強を行う。
(六) 床下の独立基礎や床組材の修正
一階各室において、床の不陸調整や隅部補修を行う。
(七) 内部補修・建具の調整
壁構成材のずれや歪みを修正し、壁面材を張り替え、出入り口、間仕切り、窓、収納等の建具・額縁の修正を行う。
(八) 排水管やガス管等の設備の調整
地盤の不同沈下は、地下埋設の管類に大きな応力と変位を及ぼし、管の接合部には無理な力が働いているので、歪みを除去するためにマスや配管の据え換えを行う。
(九) 屋根瓦や樋の補修
ずれた瓦や樋の位置を補正し、接合部の補修を行う。
(一〇) 外壁の補修と塗装
外壁の下地・面材の亀裂や浮き、歪みを点検補修し、面材の張り替えを行い、全面的に塗装する。
(一一) 外構や土間の補修
門戸、階段、ポーチ、外周コンクリート、モルタル、タイルの亀裂を補修し、沈下部分を打ち足し、張替工事、塗装工事も行う。
2 前記認定の本件地盤沈下の状況、本件建物(一)ないし(四)の被害状況、《証拠省略》によれば、右1の工事費用として、本件建物(一)ないし(四)につき、それぞれ次のとおり要するものと認められる。
(一) 本件建物(一)について
(1) 総合仮設工事・直接仮設工事として一三七万七三〇二円、取壊し・はつり工事として二八万一七〇〇円、建物等移動押上工事として八七万七五〇〇円、杭・事業工事として二九一万六〇〇〇円、タイル工事として七万円、木工事として五〇万円、金属とい工事として一四万一四〇〇円、左官工事として七〇万七二〇〇円、吹付工事として四六万二〇〇〇円、外壁改修工事として一一万二〇〇〇円、木製建具工事として一〇万円、金属建具シャッター工事として七万円、塗装工事として三万円、内装工事として二〇万円、外構施設・雑工事として四〇万七七〇〇円、調査・測量・計画・設計費として五八万五〇〇〇円、以上直接工事費用として、合計八八三万七八〇二円を要することが認められる。
(2) (1)に対する現場管理費としては、その一割である八八万三七八〇円を相当と認める。また、一般管理費としては、直接工事費用と現場管理費の合計九七二万一五八二円の一割である九七万二一五八円を相当と認める。
(3) 合計 一〇六九万三七四〇円
(二) 本件建物(二)について
(1) 総合仮設工事・直接仮設工事として一一六万六〇五九円、取壊し・はつり工事として三六万七五〇〇円、建物等移動押上工事として一六五万七五〇〇円、杭・事業工事として四一八万二六三八円、タイル工事として七万円、木工事として五〇万円、金属とい工事として一七万九四八〇円、左官工事として一一五万六〇〇〇円、吹付工事として七〇万円、外壁改修工事として一一万二〇〇〇円、木製建具工事として一五万円、金属建具シャッター建具として七万円、塗装工事として三万円、内装工事として二〇万円、外構施設・雑工事として一八万三四六五円、調査・測量・計画・設計費として五八万五〇〇〇円、以上直接工事費用として、合計一一三〇万九六四二円を要することが認められる。
(2) (1)に対する現場管理費としては、その一割である一一三万〇九六四円を相当と認める。また、一般管理費としては、直接工事費用と現場管理費の合計一二四四万〇六〇六円の一割である一二四万四〇六〇円を相当上認める。
(3) 合計 一三六八万四六六六円
(三) 本件建物(三)について
(1) 総合仮設工事・直接仮設工事として九六万九八二四円、取壊し・はつり工事として三五万四三〇〇円、建物等移動押上工事として九〇万円、杭・事業工事として二八〇万六六五〇円、タイル工事として七万円、木工事として三〇万円、金属とい工事として一二万七〇五〇円、左官工事として九〇万〇八〇〇円、吹付工事として三八万四〇〇〇円、外壁改修工事として一一万二〇〇〇円、木製建具工事として一〇万円、金属建具シャッター工事として七万円、塗装工事として三万円、内装工事として二〇万円、外構施設・雑工事として一七万六六七〇円、調査・測量・計画・設計費として五八万五〇〇〇円、以上直接工事費用として、合計八〇八万六二九四円を要することが認められる。
(2) (1)に対する現場管理費としては、その一割である八〇万八六二九円を相当と認める。また、一般管理費としては、直接工事費用と現場管理費の合計八八九万四九二三円の一割である八八万九四九二円を相当と認める。
(3) 合計 九七八万四四一五円
(四) 本件建物(四)について
(1) 総合仮設工事・直接仮設工事として七四万四〇六九円、建物等解体・取壊し・はつり工事として一二万一八六〇円、建物等移動押上工事として九〇万円、杭・事業工事として二二八万九二八五円、躯体工事として二四万三〇〇〇円、タイル工事として七万円、断熱工事として三万七五八四円、木工事として七〇万円、金属とい工事として一三万〇五五〇円、左官工事として一二万二〇〇〇円、吹付工事として四四万二〇〇〇円、外壁改修工事として一一万二〇〇〇円、木製建具工事として一五万円、金属建具シャッター工事として九万七八四〇円、ガラス工事として七二九〇円、塗装工事として三万円、内装工事として三〇万円、電気設備工事として一三万二〇〇〇円、外構施設・雑工事として二〇万三八五〇円、調査・測量・計画・設計費として五八万五〇〇〇円、以上直接工事費用として、合計七四一万八三二八円を要することが認められる。
(2) (1)に対する現場管理費としては、その一割である七四万一八三二円を相当と認める。また、一般管理費としては、直接工事費用と現場管理費の合計八一六万〇一六〇円の一割である八一万六〇一六円を相当と認める。
(3) 合計 八九七万六一七六円
(五) 原告らの請求する費用のうち、認められない費用について。
原告らは、《証拠省略》を根拠に、共通仮設率計上費と共通仮設積上げ費(共通仮設費用等)として、直接工事費用の一%強を計上して請求しているが、その必要性が判然としないほか、右各証拠には、別途、総合仮設工事・直接仮設工事費用として、前記のとおり相当額を計上しているところ、本件全証拠を検討しても、これ以外に付加して仮設費用を要すると認めるに足りる根拠は見出せない。したがって、原告ら請求の共通仮設費用等は、相当な補修費用に含まれると認めることができない。
また、原告らは、調査費用として、各一〇万円ずつ請求しているが、前記認定の直接工事費用の中は調査・測量費、計画・設計費として合計五八万五〇〇〇円が含まれているところ、このうちの調査費用との異同が証拠上明らかでないから、別途、調査費用を付加して認容するのは相当でない。
(六) 地盤の固化工事費用について
なお、前記各補修費用の中には地盤の固化工事費用が含まれているが、さらにその中には、建築業者が建物建築を行うに際して当該建物の荷重に即応した地耐力を維持するために本来行うべき地盤補強工事を超えた、本来的には元々敷地提供者が行っておくべき地盤補強工事の費用が若干でも含まれている可能性もないではない。しかしながら、本件の場合、仮にそうであったとしても、被告ミカドホームズが地盤調査をすることもなく、切り土地盤までの支持杭を設けることもなく異種基礎を併用するなど、建築業者としての安全性確保義務に反した工法で本件各建物を完成させたために前記のような補修方法を採らざるを得ないのであって、補修費用の中に前記のような工事費用が含まれているとしても、これらは被告ミカドホームズの不法行為と相当因果関係を有するというべきである。
3 その他の損害
(一) 原告らの一時移転費用について
《証拠省略》によれば、本件建物(一)ないし(四)の補修工事期間として二~三週間を要し、その間は、原告ら各世帯は一時近隣の旅館等に宿泊する必要のあることが認められ、右費用は本件地盤沈下と相当因果関係がある。そこで、補修期間中の一時移転費用としては、一家族当たり一日二万五〇〇〇円×二〇日間=五〇万円を相当と認める。
(二) 弁護士費用
本件事案の性質、審理経過、認容額、その他本件に現われた一切の事情を考慮し、原告らの負担する弁護士費用のうち、本件建物の瑕疵及び本件地盤沈下と相当因果関係のある額としては、次のとおりを相当と認める。
(1) 原告昆布 五五万九六八七円
(2) 原告西沢 七〇万九二三三円
(3) 原告藤岡 五一万四二二〇円
(4) 原告瀬戸 四七万三八〇八円
ところで、被告不破両名の原告西沢に対する責任は瑕疵担保責任を根拠とするものであるところ、契約責任に基づく損害賠償請求においては、特段の事情のない限り、弁護士費用は損害に含まれないと解すべきであるから、被告不破両名に対する認容額には右(2)を含めないものとする。ただ、被告本四興産及び被告岩井商店の原告昆布及び原告藤岡に対する瑕疵担保責任は、不動産業者でもある売主としての瑕疵担保責任に基づき、早期に被害者であり購入者である右原告らに対して補修等の措置を講じるべきであったにもかかわらず、何らの応答もせず、本訴においては明らかに売主として責任を負うべきであるのにこれを否定し続け、原告らが土地建物を購入してから約一〇年に至るもまだ被害の回復を受けていない現状に照らせば、被告本四興産及び被告岩井商店の負う責任は不法行為責任にも匹敵すべきと解するのが相当であるから、弁護士費用も負担すべきである。
4 損害額のまとめ及び遅延損害金の起算日
(一) 損害額合計
(1) 原告昆布 一一七五万三四二七円
(2) 原告西沢 一四八九万三八九九円(ただし、被告不破両名に対しては一四一八万四六六六円)
(3) 原告藤岡 一〇七九万八六三五円
(4) 原告瀬戸 九九四万九九八四円
(二) 損害金の起算日
不法行為に基づく損害賠償請求に関する遅延損害金の起算日としては、本件地盤沈下は日々進行していてこれによって損害が発生した日を確定するのは困難であること、原告らの請求額は、タウン設計の調査段階の被害の状況に基づくものであること等にかんがみ、右調査結果の判明した日(平成九年一月七日)を起算日とするのが相当である。
そして、民法五七〇条に基づく損害賠償債務は、期限の定めのない債務であるところ、本件証拠上、その請求日は、本訴状送達の日であるから、遅延損害金の起算日はその翌日(被告本四興産、被告岩井商店及び被告不破功博については平成九年五月三一日、被告ミカドホームズについては平成九年六月五日、被告不破孝成については平成九年六月一五日)であると認められる。
第五結論
一 原告昆布関係
被告ミカドホームズ、被告本四興産、被告岩井商店は、原告昆布に対し、各自、金一一七五万三四二七円及び被告ミカドホームズについてはこれに対する平成九年一月七日から、被告本四興産及び被告岩井商店についてはこれに対する平成九年五月三一日から、それぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を支払う義務がある。
二 原告西沢関係
被告ミカドホームズは、原告西沢に対し、金一四八九万三八九九円及びこれに対する平成九年一月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を支払う義務がある。
被告不破両名は、原告西沢に対し、金一四一八万四六六六円及び被告不破功博についてはこれに対する平成九年五月三一日から、被告不破孝成についてはこれに対する平成九年六月一五日から、それぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
三 原告藤岡関係
被告ミカドホームズ、被告本四興産、被告岩井商店は、各自、原告藤岡に対し、金一〇七九万八六三五円、及び被告ミカドホームズはこれに対する平成九年一月七日から、被告本四興産及び被告岩井商店についてはこれに対する平成九年五月三一日から、それぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
四 原告瀬戸関係
被告ミカドホームズは、原告瀬戸に対し、金九九四万九九八四円及びこれに対する平成九年六月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
五 よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 渡邉安一 裁判官 三木素子 井上博喜)
<以下省略>